多くの人がSNSアカウントを持つようになった昨今、企業にとっても公式SNSアカウント運用が必須になってきました。
いっぽう未だSNS運用をためらう理由としては「SNSの怖いイメージ」が挙げられます。特に炎上は、企業イメージを守る上で恐ろしいと感じますよね。企業が炎上した場合、その後の対応次第でイメージアップにも更なるイメージダウンにもつながります。
「炎上したら、とにかくすぐに謝罪したほうがいい」と考えている企業担当者も多いと思います。しかし近年のインターネット炎上の状況を見ていると、すぐ謝罪という炎上対応だけでは危険かもしれません。
この記事では、もし自分の会社が炎上しそうな時どうすればいいのかについて解説します。
目次
必ずしも「批判がある=炎上」とは限らない
炎上の本来の定義は「インターネット上で、収集が付かないほど多くの批判が集中すること」です。しかし最近は、本来の定義から外れた状態にも、炎上という言葉を使って表現するようになってきました。
話題になれば、必ず好意的な意見と批判的な意見が寄せられます。多くの批判があるいっぽうで、批判と拮抗したり上回ったりするほどの好意的意見があるならば、それは本来は炎上とは言えません。
また、ほんの数件の批判的意見があるものの、ほとんどの人は中立あるいは無関心な状況であれば、これも本来は炎上状態とは言えないでしょう。
そもそも”収集が付かないほどの多くの批判”とは何件くらいでしょうか。人によっては10件の批判でも多いと感じるでしょうし、著名人ならば数百件の批判でも大したことないと感じるでしょう。炎上しているかどうかを判断できるのは、その人の主観によります。
批判が炎上に変わるのは、一定の行程を踏んだから
炎上かどうかを判断するのは主観であるならば、どうして多くの人に「炎上」と認知されている事例があるのでしょうか?実は、炎上だと認知されるか否か、を分けているのは、「炎上にありがちな流れを踏んだかどうか」です。
実は、"炎上"にはある程度お決まりの流れがあります。
①炎上のきっかけとなる事象が発生する ▼ |
SNSでは、利用ユーザーの好みに合わせて投稿をレコメンドしたり、タイムラインを自動でカスタマイズしたりされています。そのためSNSでは、近しい意見や傾向をもつクラスタが形成されるようになり、異なる意見や多様な人々の投稿は、なかなか目に入らない仕組みになっているのです。
よって、一部のクラスタ間だけで批判されているうちは、話題になっているように見えても、実はほとんどの人は話題について何も知りません。
しかし、「まとめ」がつくられると、多くの人に批判が拡散され、話題になります。
たとえば、インターネットニュースに「〇〇に対する批判の声が相次いでいます」と書かれると、「どうやら〇〇が炎上しているらしいぞ」と、今まで批判に参加していなかった人が反応します。そして多くの人が「自分はこう思う」と軽い意見を述べるようになります。
インターネット上のニュースを読んで、「自分はこう思う」とツイートしている人に、「炎上に参加している」という認識はないでしょう。ニュースを目にして、自分の感想を述べているだけです。しかしそうして感想をSNSに投稿し、話題に言及する人が増えていくことによって、「批判的意見」が、クラスタ外の広い層に知られるようになります。
そして、話題が拡大してくると、さらに大きなメディア、あるいはテレビ等のオフラインメディアで「〇〇に批判の声」「〇〇が炎上」と報じられます。
そうして、「炎上した」事実として認識されるのです。
実際にツイート状況を見てみると、批判的な投稿が増えているのは、「〇〇が炎上した」というニュースが出た後だったりします。「〇〇に批判の声」という記事を読むことによって、読み手は自然に「〇〇には問題があったらしい」というバイアスをかけて受け取ってしまいますから、ネガティブ寄りの意見が増えやすいのかもしれません。
一定の行程を踏めば「炎上」が演出されてしまうこともある
緊急事態宣言下の2020年4月に、「サザエさんが不謹慎だと炎上したらしい」とTwitterで話題になったことがありました。
サザエさん一家が、GWのお出かけ計画を立てるという番組内容。これに対して「こんな状況で不謹慎ではないかと批判する声が相次いでいる」と、デイリースポーツなどいくつかのネットニュースで取り上げられたのです。これに対し、「こんなことで批判するなんて心に余裕がなさすぎる」「現実とアニメの区別がついていないのか」などと、自分の意見をツイートする人が相次ぎました。
しかし、東京大学准教授の鳥海不二夫氏実際にツイート状況を調べてみると、「炎上した」というニュースが出る前に批判的なツイートをしていた人は、実際は11人しかいなかったことが明らかになったのです。
本来の炎上の定義では、炎上とは「①インターネット上で、②収集がつかないほど多くの③批判が集中すること」です。
11人が批判している状況は、とても「収集がつかないほど多く」とは言えないでしょう。この段階で"炎上"が発生しているとは言えません。
しかしネットニュースが出た後、たくさんの人が「炎上に対する批判」についてツイートしました。解釈によっては、収集がつかないほど多く、といえるかもしれません。
4月26日のサザエさんが話題になったのは、「批判の声」があったからではなく、「批判に対する批判」があったからです。上記①②③の定義からは外れていますが、「サザエさんが炎上した」と一般に事実として認識され、話題が大きく拡大してしまったならば、それはもう"ある種の炎上"と呼べるでしょう。
批判の声だけを拾ったまとめ記事が作られることによって、記事を読んだ人が意見を投稿し、「炎上に対する批判」によって炎上が既成事実となってしまうこともあるのです。
「早期に謝罪する」が逆効果になるケース
「炎上したらすぐに謝罪」という対処法は、従来の定義のように批判が集中している状況においては有効です。
「定義通りの炎上」であれば、
- 批判の声が上がる
- 批判の声が拡散する
- 批判の声がさらに増える
- 結果、収集がつかないほど多くの批判にさらされる
- 2以降くりかえし
と、批判の声が増え、拡散されることによって負の話題化が進行していきます。このような状況では、負の話題化を、早期に鎮静化することが求められるため、早期の謝罪が重要です。「適切な謝罪」を行うことにより、批判している人を納得させ、以降の批判拡大スピードを遅らせることができるためです。
しかし、前述のサザエさんのケースは、批判の声によって炎上している訳ではありません。むしろ「炎上に対する批判」が、ある種の炎上を起こしているのです。
このような状況で、もし謝罪を行ったら「炎上に対する批判」がさらに増加・拡大するでしょう。
「理不尽な批判に屈する必要はない」「謝罪させたのは〇〇な人に違いない、許せない」「クレーマーをつけあがらせる対応はやめろ」といった意見があがることが予想されます。こうなると負の話題化を鎮静化するどころか、逆に話題が拡大する事態を招いてしまいます。
「炎上」と呼ばれている場合でも、早期の謝罪が適切なケースと、そうではないケースの両方があるのです。
まずは実態の見極めが必須
「炎上」は、Twitterの話題を取り上げるため、取材コストが低く記事にしやすい話題です。しかも人々の関心を惹くことができるため、非常にコスパのいいテーマといえます。そのため最近は、以前より広い意味で炎上という語が用いられている状況です。
炎上という言葉で話題になっていても、多くの批判にさらされている本来の炎上もあれば、実際は批判がほとんど無いのに、炎上と呼ばれてしまっているだけのケースもあります。
よって炎上リスクマネジメントに取り組む企業は、まずは「炎上」と言われている状況が実際にはどうなのかを見極める必要があるのです。
具体的には、Twitterで関連ワードを検索して「A.批判的な意見」「B.炎上に対する批判意見」の両方を数点ピックアップしてみるのが良いでしょう。
A.批判的な意見が多く見つかれば、これは本来の定義通りの、批判集中型の炎上である可能性が高いです。早急に謝罪の方向で検討を進めましょう。
いっぽう「B.炎上に対する批判意見」のほうが多ければ、実際には炎上していないのに、炎上が演出されている可能性があります。この時は謝罪を焦らず、引き続き慎重に事態を注視しましょう。
また、A.批判的な意見と、B.炎上に対する批判意見が同じくらいありそうな場合は、意見の違うユーザー間で議論白熱状態である可能性が高いです。
もともと議論を起こすことを狙っていた場合は問題ないのですが、議論になるとは思っていなかった場合は、企業の意図を説明する必要があるかもしれません。ABそれぞれの意見はどんな人によって表明されているのか、企業としては誰の立場に寄り添いたいのか、個々の状況に応じて判断しましょう。
あらかじめ「炎上かも」と察知したときのフローを定めておくのは有効です。
炎上の可能性を察知したら、状況を確認し、方針(謝罪か様子を見るか)を判断し、行動に移す必要があります。これをSNS運用担当者のみで行うと、対応が間に合わなかったり、判断を誤ったりするリスクがあります。もしもの時には誰がどう行動するべきかを定めておくことで、万一の時にも焦らずに対応できるでしょう。
また、社内で報告しあえる体制を整えておくのは重要です。炎上の可能性をいち早く察知できれば、迅速に対応できる可能性が高まります。SNSは会社の顔であるという意識をもって、社員みんなで注目できるといいですね。
まとめ
「炎上」というと、何か悪いことをやらかして、批判がたくさん殺到している……という状況を想像します。
しかし「炎上」かどうかは、誰かの主観によって判断されているのです。そのため、全ての炎上が、実際に「たくさんの批判にさらされている」状況であるとは限りません。
本当に炎上に対応する人は、実際の状況を見極める必要があります。近年は「炎上への批判」による炎上がかなり多発していますので、「炎上したらすぐ謝罪」とすぐに結論付けてしまうのではなく、実際の状況に応じた対応をとることが尚更求められています。
「SNSでうれるしくみサポート」では、アカウント立ち上げ時などに悩みがちな「炎上させないためにどうするか」「もしも炎上したらどうすればいいか」といった問題への対応策をご用意しています。
対応フローの策定もお手伝いしますので、炎上対策にお悩みならお気軽にご相談ください。